頑張ってます!新規就農者

西興部村

「牛飼い」と「羊飼い」、山里の暮らしを楽しむ 🐮酪農 🐑羊

「牛飼い」と「羊飼い」 ~やりたいことをやりたいようにやる、だから楽しい~

Mさん(38歳)、配偶者 Myさん(34歳) 2020年2月就農、西興部村(取材:2024年8月6日 O記 協力:西興部村役場)

【地域の概要】

 西興部村(にしおこっぺむら)は、北海道北部に位置し、人口約1000人が暮らす村です。森林に包まれた自然豊かな農山村地域で、面積の9割を森林が占め、農林業を基幹産業としています。
 村の建物の外壁の多くは、「美しい村づくり条例」により落ち着いたオレンジ色に統一され、緑豊かな森林の中で夕焼け色が映える風景です。村では「オレンジ」にちなんで、みかんの栽培を始めました。オレンジハウスの暖房は、牛のふん尿を使ったバイオガス発電で余った熱を利用しています。
 農業産出額の9割以上が酪農で、酪農家戸数は13戸と少ないですが、近年では、大規模酪農法人も設立されています。新規就農者は5戸で、全体の約4割を占めており、今後も増える見込みです。

【動機から就農まで】

 Mさんは道北豊富町(とよとみちょう)の酪農家の長男、遊び盛りの小さな頃から仕事を手伝わされていたため、「酪農はやりたくない!」と思っていました。高校卒業後は、札幌や東京で働いたり、海外・国内と旅をしたり、色々な経験をする中で、「自分の場所がほしかった。やりたいやり方で好きなことを好きにやれる場所。広大さと自由さでは酪農に勝るものはなかった」と振り返る。
 一方、Myさんは兵庫県出身、幼いころから動物が好きで、帯広畜産大学に入学し畜産を学びました。在学中に、見た目もかわいい、食べてもおいしい羊に魅せられ、卒業後は地域おこし協力隊として士別市にある羊の観光牧場で働きました。「将来は羊飼い、羊飼いは仕事としてやりがいがある。羊飼いの暮らしそのものを楽しみたい」と思うようになりました。
 お二人が出会ったのは2013年、興部町(おこっぺちょう)で開催された「新規就農を考える会」でした。牛飼いと羊飼いの違いはあったものの、揺るぎない新規就農への思いは一致、会話は弾み『よし、一緒に新規就農しよう!』と歩み始めました。が、新規就農への道のりは険しく、失敗も経験しました。そんなとき、西興部村に離農跡地があると誘いを受け、行ってみると「山の中の細い道を出たところに、ぽっかりと空間が広がり、その向こうに広がる傾斜地、ここに牛や羊が放牧されている風景が目に浮かび一目ぼれ」とMyさんはここを選んだ理由を教えてくれました。
 2年間の農家研修では、3戸の酪農家を10日おきに回った。「元来、人に言われて動くタイプではないので、指図されて作業するのはきつかった」とMさん。過去に第三者継承で研修したが、一年ほど研修したころに「やっぱり住宅は譲れない!」と当初の約束を破られ失敗した苦い経験がありました。「今回は、離農跡の空物件だったのでトラブルがなくて良かった」と話す。
 牛舎は1年近く使われていなかったため、地域の方々が片付けを手伝ってくれた。「本当に地域の人たちに恵まれている。過去に失敗もあったけど、結果的にこの地域のこの牛舎で就農ができて本当に良かった」とMyさん。そしてMyさんの夢であった羊飼いの計画も着々と進めました。

【就農してから】

 就農して最も苦労したことは、「就農と同時に妊娠した牛を導入したので、月に20~30頭が一気に出産を迎え、このときはきつかった。これと羊の出産や子牛の下痢も重なり、D型ハウスが雪で倒壊するなど、肉体的にも精神的にもボロボロになった」と振り返り、今となっては忘れられない思い出、乗り越えられたことが自信になっているそうです。
 「就農後は、農業改良普及センターがいつも立ち寄ってくれた。技術を提供してくれるだけでなく、電気牧柵を一緒に張ったり、新人普及員の研修農場に選んでもらったり、技術面も労働面も支えられて助かった」と口を揃える。
 就農して良かったことは、「牛飼いと羊飼いの二人が同じ方向を向いて、自由に好きなことがやれること。楽することや儲けることよりも『やりたいことをやりたいようにやる』、これが原動力となって一日中外で作業する、これが楽しい。やりたいことがやれることで、人として成長できるような気がする。効率を求める今の世の中からは退化しているのかもね」とMさんは屈託のない笑顔で話す。
 「直近でやりたいことは家を建てること。高額なので頑張りに繋がる。将来的に経営が安定してくれば、牛を減らして、羊を増やしてもいい。羊飼いをやるために、牛飼いから始めたと思ったらいい。55~58歳になったら、もう一度旅がしてみたい」とMさんの考えは自由で楽しい。
 笑顔の多いお二人と話していると会話が弾みます。『やりたいことをやりたいようにやる』本当に楽しそうです。取材当日は気温が高く「今日はアブが多いので、放牧には出さないですよ」、工具がきれいに整理整頓されているのを聞くと「いざというときに直ぐに使えるように」、新播草地に案内されて「雑草が多くてダメかな」と熱心に質問、やりたいことは適切な農場運営に通じていると感じました。これから農場がどのように展開されていくか、とても楽しみです。

【経営概要】

・労働力:2人                          
・経営面積:70ha(うち放牧地20ha、採草地50ha)
・経産牛58頭、育成牛28頭
・繁殖緬羊、肥育緬羊
・タイストール牛舎、乾乳牛舎、育成牛舎、緬羊施設、トラクター他

【就農支援制度の活用】

・青年等就農資金
(以下は村独自の制度)                          
・奨励金:認定新規就農者に対して200万円
・補助金:農場リース事業の5年間賃借料の1/4額
・補助金:農場リース事業の農場譲渡後5年間の固定資産税額
・補助金:借入した制度資金額の1/5(上限額1000万円)

【経営の特徴】

・「牛飼い」と「羊飼い」の自由な発想                          
・やりたいことを、やりたいようにやって、仕事も暮らしも楽しむ

【後輩へのアドバイス】

 何度失敗しても、ボーとしてでもいいから、途中であきらめないで、そこしか見ないで、単純にそこに向かっていけば、就農できる。