頑張ってます!新規就農者

滝川市

地元産ワイン作りをめざす  🍷ワイン  🍇醸造用ぶどう

「新規就農して良かった点は、経営上の全てを自分で決めること」~地元産ワイン作りをめざす~

[Tさん(31歳) 平成29年3月就農 滝川市]
(取材:令和元年6月25日TC記  協力:滝川市地域担い手育成センター)

地域の概況

 滝川市は札幌市と旭川市の中間に位置し、人口4万人余りで中空知地域の中心付近に位置する都市として発展しています。
 内陸性気候のため、夏季は昼夜の温度差が大きく、冬期間の積雪は道内でも有数の豪雪地帯という気候条件のもと、稲作を基幹として、小麦やそば、なたね、大豆などの畑作物のほか、トマト・花きの施設園芸、和牛繁殖などを導入した水田複合経営が展開されています。
 特に、畑作物においては、もち麦をはじめ、エゴマ、イナキビ、アワ及びヒエといった雑穀など、健康に良いとされる品目の作付が拡大しています。
 滝川市といえば何を思い浮かべますか?
「味付けジンギスカン発祥の地」と言われており、5社のジンギスカンメーカーがある「ジンギスカンのマチ」です。最近では、有数の作付面積を誇り、開催20回を数える「たきかわ菜の花まつり」。そして滝川市の観光スポットのトップである「たきかわスカイパーク」。上昇気流をつかまえてグライダーが飛行している風景を見るだけでなく、鳥になることも体感できます。

動機から就農まで

(こんな魅力いっぱいの滝川市に、平成29年3月に就農したTさんってどのような方?)
前職は測量の技術者で、パソコンなどを駆使した仕事をしていました。農業に携わりたくて北海道に移住しましたが、知り合った農家の方々から厳しい意見を受け、一度は断念しました。他の仕事をしていましたが、道内に醸造用ブドウ栽培及びワイン製造が活発になってきたことがきっかけとなり、再び農業を志望しました。
 人を通して紹介してもらった余市町の株式会社Hファームで面接を受け、農業部門で正社員として働きました。そこで学んだことの全てが、今の自分に役立っています。
 例えば、古いブドウの木を改植した園地で、ゼロからブドウを育てました。若木の管理を学ぶことができましたし、様々な機械の操縦や整備の知識を学べました。
 また農業をめざした理由は、生産だけでなく加工・販売を含めた幅広い経営が可能であることからですが、Hワイナリーではワイン醸造の手伝いもさせてもらいました。
 しかし、余市町では就農地を確保できず、両親の移住先である滝川市に着目しました。以前から滝川市江部乙町(えべおつちょう)の果樹農家と交流があり、果樹地帯の再興に一役買いたいとこの場所に決めました。

経営規模

 果樹と畑作の複合経営です。
農地(借用地・畑):4.2ha(令和元年に1.4ha増で4.2haに)
労働力:自分・父・母
作目:醸造用ブドウ
   なばな(ハウス100坪1棟 3月末~4月末約1か月収穫)、
   おもちゃかぼちゃ(露地栽培、H29~H30年は栽培したが、
   R元年はほ場準備の為 休止)
   にんにく(市外にほ場を借りてH30年植付。道内の在来品種を栽培)
機械:トラクター2台(借用)、防除はスプレヤーと背負い動噴、
   下草刈り用モア
生産実績: *平成30年秋に収穫したブドウ300㎏を10月に仕込み、
      令和元年7月上旬に瓶詰めする。
     (岩見沢市のワイナリーに委託加工)
      8月にはラベルを貼ってリリースする予定。
販売ルート:JA40%、その他(法人・個人直販)55%、直売所5%

経営の特徴

(今後数年は経過しないと、実際の経営の特徴は著明にはならないかもしれませんが、将来のブドウ園の姿がすでに見えているTさんは、就農3年目の想いを吐露してくれました)
1.醸造用ブドウ7品種の栽培
  赤ワイン用は、ピノワール(仏)、ツバイゲルトレーベ(豪)。
  白ワイン用としてピノブラン(仏)、ピノ・グリ(仏)、シャルドネ(仏)、リースリング(独)、ミュラー・トゥルガウ(欧)。
 収量にバラツキはあるが(ピノは収量が少ないが、早生系のものは収量が多いなど)、道内の実績、土壌・気象条件の違いを念頭において、ここの土に合い、耐寒性のあるものを導入しています。滝川市では、ブドウの栽培前例がないため、品種選定などは手探りで行いました。

(余市と比べるとブドウの反収などは少ないと聞きましたが・・・)
2.余市町との栽培環境の違いを分析
 気象・土質条件は滝川の方が悪いが、気候の変動により滝川市も栽培適地になっています。年間の平均気温や降雪量を調べて土地の選定をしました。
 重粘土に対応できる品種を選定しています。好条件は年間を通して比較的冷涼であることと、昼夜の寒暖差が激しいところ。この特徴はブドウの糖度を増しつつ酸の成分も期待ができ、良いワインになる条件にもつながります。悪条件としては雨が多い事です。

就農支援制度の活用

・農業次世代人材投資資金(経営開始型)
・青年等就農資金
・営農経営自立補助金(滝川市)

経営の目標

 今年は経営面積を1.4haほど増やします。土づくりをして、ブドウを植えていきますが、研修生や人を雇用したりできたらとも思いますし、研修生にとって勉強できるように機械の導入等も考えていきたいと思っています。
 将来の夢はワイナリーを建て、自分の畑で収穫したブドウをワインにしたいと思います。
(目標本数は?)10,000本のワイン作りを目指しますが、まだ少し先の事になるでしょう。

後輩へのアドバイス

 土地の選定というか、どこで就農するのかはとても大事だと思います。時間をかけて土地を探してほしいですね。
 排水性はブドウの根が下に伸びるためには大事な条件で、地面の傾斜は作業性が落ちますが、平坦よりも多少の傾斜が有ると良いと思います。雪が降らずに-15℃を超える所は凍害の対策が必要になります。土地を選んで(心土、表土、気象条件等)栽培する品種を選ぶことが重要になります。
 農業経験が一切なかったため、研修開始当初は、農作業に慣れることや経理などの習得にも時間がかかりました。
 新規就農して良かった点は、経営上の全てを自分で決める必要があり、責任感は必要ですがそれがまた楽しいと感じます。また、他の農家との繋がりを広げ、地域の人々と深く交流できるところも良いところですね。

雑感

 滝川市江部乙地区は、空知郡江部乙町として一つの生活圏を形成していた区域ですが、1971 年に滝川市と合併しました。丸加(まるか)高原まで丘陵地が続く東側地区には、春はナタネ採取のための菜の花が栽培され、秋には甘酸っぱく香るりんご園が点在しています(滝川市のHPより)。
 そのりんご園の跡地に根付いたのは、一度はあきらめかけた農業者への道を、「やはりもう一度」と決意した青年の想いと、その手によって植えられたブドウの苗木です。
 おいしいワインがその熟成時間を要するように、この地からTさんの新たなワインが誕生するその時を、私たちもゆっくりと見守りたいと思います。