すべての牛に愛称を付けて大事に 🐮酪農
厚岸町の新規就農第一号となったYさんをご紹介します ~すべての牛に愛称を付けて、一頭一頭大事に~
[Yさん(43歳)、平成26年10月就農、厚岸町]
(取材:令和2年9月14日 O記 協力:厚岸町農業委員会)
地域の概要
厚岸町は北海道の南東部に位置し、太平洋に面した海岸線が綺麗なまちです。南には厚岸湾が深く入り込み厚岸湖に通じており、この水際に市街が広がっています。総面積は739.27平方キロメートル。
厚岸町は、東北海道では最も早く開けたところで、東北海道開拓の玄関として、また、道東文化発祥の地として長い歴史を誇っており、天然の良港と牡蠣を代表とする海の幸、屯田兵の入植から開拓された酪農郷と相まって発展してきました。
昭和30年には厚岸道立自然公園の指定を受け、平成5年には厚岸湖・別寒辺牛湿原がラムサール条約に登録されるなど、豊かな自然環境にも恵まれています。
夏は30℃を超えることはめったになく、平均して冷涼で、霧の発生が多く、幻想的な光景を目の当たりにできます。秋から冬にかけては晴れの日が多いため、頭上には満点の星空が広がり、積雪は北海道の中では比較的少ないほうです。
動機から就農まで
「獣医を辞めて酪農家になったのではなくて、酪農家になるために獣医になった。」と話すYさん。理系志望のYさんが予備校に通っていた時、環境問題に関心があり、そのうち「自分が毎日食べているものを知らなさすぎる」と思い始め、自然環境の中で仕事をする酪農を意識するようになりました。
酪農家になるための勉強の場として考えたのが獣医さん、そこで北里大学の獣医学部に入学、卒業後は長野県の家畜保健衛生所に2年、乳業会社診療所の獣医師として8年間勤め、この間長野県で酪農ヘルパーをされていた長野県出身の奥様と出会いご結婚、一緒に酪農家を目指すことになりました。
長野県での就農も考えましたが、奥様からの勧めもあり北海道へ。しかし就農するまでは困難もありました。最初に就農を目指した町でのこと、離農予定の酪農家さんの牧場で2年間の経営継承のための研修に入りました。しかし、その酪農家さんとは、酪農、牛、生乳に対する考え方が違っていました。関係機関の方が色々と仲介してくれましたが、「考え方が異なる方の下で2年間の研修は難しい」と思い悩み、1か月で研修を取りやめました。
それから美瑛町の実家を拠点に、就農地を探すことに専念しました。平成25年11月開催の新・農業人フェアに参加し、そこで出会ったのが釧路太田農協の方でした。非常に熱心に対応して下さり、「この農協であれば大丈夫」との思いを強くしました。同じ失敗を繰り返さないために、「良好な関係にあっても長い期間研修を続けると、良い関係も悪くなることがある。」ことを町や農協に相談し、3か月毎に酪農場を交代する研修スタイルとなりました。このことによって、様々な酪農技術を身に付けることができ、地域の方々と親しくなる機会が増え、地域に溶けこむことができました。今では研修生の受入農場が32戸となり、この研修スタイルが確立し、新規参入者も現在5戸、研修中が1人となっています。
研修は2年間の予定でしたが、就農予定の農場でない酪農家の方が病気で倒れ、急遽この酪農場の跡を引き継ぐことになったため、研修は1年1か月で終了し、平成26年10月に厚岸町の入植第一号となりました。就農に至るまでは、「人に恵まれたことが大きかった。意見を出し合いながら就農に向けて良い方向に向かった。」と周りのサポートに助けられたことで就農できたそうです。
就農してから
第一号なので失敗したくない思いが強くありました。就農当初は45頭の経産牛から始めましたが、子供が小さいので妻が牛舎に出る時間が限られることなどから、管理の質を落とさないため、37頭に減らしました。獣医としては牛のストレス軽減や疾病予防と対策に人一倍注意を払い、乳質に関しては年間通して良好な状態を保っています。また、古い規格の牛舎なので、高品質な管理を維持するためには労働投資が大きすぎるというのが問題点となっているそうです。
経営概要
・労働力:2人
・経営面積:45ha
・経産牛:37頭
・出荷乳量:330t
就農支援制度の活用
・青年等就農資金
・農協リース事業
経営の特徴
・すべての牛に愛称を付けて、一頭一頭大事に育てています
・しっかりとした個体管理で長命連産
・緻密な乳質管理で高品質な生乳生産
・バンカーサイレージとトップドレスによる個体管理
・夫婦二人の現状の労働力、現状の規模を維持し、内部充実を図る
就農前に習得した方が良いと思う事
・特になし、やりながら失敗しながら学んでいけばいいと思う
後輩へのアドバイス
・1年くらい暮らせる自己資金を持っていること(200~300万円)
・サポート体制がしっかりしている就農場所を選ぶこと
・必要なのは、この仕事で生きていく、家族を養っていく覚悟
・自信やプライドは必要ない