大学卒業後2年の研修で新規就農 🐮酪農
大学卒業後2年の研修を経て、音威子府村で新規就農したMさんをご紹介します
[Mさん(32歳)、配偶者(31歳)、子供1人 平成29年4月就農、音威子府村]]
(取材:令和3年10月27日 O記 協力:音威子府村役場)
地域の概要
音威子府村は上川管内の北端、旭川市と稚内市の中間地点にある北海道で一番小さな村です。東西22.2km、南北18.6km、総面積275.63平方kmの中央を貫流する天塩川に沿った狭隘な耕地と、総面積の86パーセントを森林が占めています。
村の自然環境に魅了された彫刻家砂澤ビッキの記念館、北海道唯一の工芸科のある北海道おといねっぷ美術工芸高等学校など、豊かな森林と工芸を活かした森と匠の村です。美しく豊かな自然やそこで暮らす人々の優しさや温かさが村の魅力の基盤となっています。
動機から就農まで
大阪出身のMさん、「小学生の時に家族旅行で北海道を訪れ、広大な大自然の中で生きづく農村風景に圧倒され、その時から漠然と第一次産業に就きたいと考えた。」と話す。夢を実現するため北海道大学に入学。同じ思いで同大学に入学した千葉県出身の奥様と出会いました。
Mさんは水産学部で4年間、大学院農学研究院で2年間学び、学ぶ中で酪農に一番魅力を感じ酪農家になることを決めました。大学院の研究テーマは「新規就農者が就農地に定着する要因分析」。まさに就農するための課題に向き合い、新規就農の現場を見て歩きました。また、在学中は同大学付属農場で搾乳作業に汗を流し、休日は奥様と一緒に道内各地の牧場を回って情報収集しました。
平成26年2月、大学院1年の時に北海道農業公社を訪れ、道北方面の酪農希望を伝え音威子府村などを紹介され、翌3月に2町村を訪問。1か所目は空きが無かったので良い返事が貰えずガッカリ。その足で音威子府村を訪問したところ、村長など村の重鎮を始め村人の大歓迎を受け、継承者を探している酪農場を紹介して頂きました。この時の光景は今でも瞼に焼き付いており、感謝の気持ちでいっぱいになるそうです。
4月に音威子府村での就農の意思を固め、移譲農家で5月と翌年2月に就農研修前の農業体験を希望し実施しました。決断の決め手となったのは、「お金もない、技術もない、不安だらけの中で、村の人達の包み込むような温かさに勇気づけられ、村の人達が背中を押してくれた。」そうです。
平成27年3月大学を卒業し、音威子府村に移住したその日、4月1日に入籍。先代の牧場で2年間、親方から牛飼いのイロハを教えて頂きました。酪農が未経験のままで研修を始めたので、最初のころは生活リズムや作業を覚えるのに苦労した。それでもなお、放牧酪農を志して、平成27年10~11月は単身ニュー-ジーランドに渡り、本場の放牧技術を勉強しました。
一方村役場では、27年ぶりの新規就農者とあって、Mさんのために新規就農者条例を改正し、研修中の実習助成金や家賃補助、就農祝い金などを新設し、新規就農に向けて手厚くサポートしてくれました。
就農してから
「音威子府村は小さな村なので、農家さんや役場といった各関係機関との距離が近く、頻繁に様子を見に来て貰えるなど、手厚く面倒を見ていただきました。所属している北はるか農協も非常に親身で、沢山サポートしていただきました。」と話す。
例えば、面倒見の良い農家さんから「タテコウ(建物更生共済の略)に入ったか?」と聞かれ、「それは何ですか、入っていません。」と答えると半ば強制的に加入させられた。その年の冬に大雪で倉庫の屋根が潰れ、格納していたトラクターや作業機が危うく屋根の下敷きになりそうなとき、「農家さんや農協の方々が駆けつけてくれ、何とか運び出して助けてくれた。おまけにタテコウへ加入したお陰で、倉庫が新品に建て替えられた。」こんなエピソードがたくさんあるそうです。
就農後1年目は日々の仕事に追われる毎日で、3年目頃からやっと落ち着いてきました。
就農して苦労したことは、「機械操作が苦手で、機械をたくさん壊し修理代が馬鹿にならなかった。また、除雪の技術が未熟だったため、豪雪地帯の冬は毎日が戦いだった。」そうです。就農して良かったのは、「目に映る景色を全て独り占めできる点」で、「今後は村唯一の酪農場として、地域から愛される牧場になりたい。」と語ってくれました。
役場でお二人からお話を伺ったあと、農場まで車で先導して頂く道すがら、歩道を歩いていたおばあさんがMさんの車に頭を下げられた。この光景をみて、お二人がいかに村人から親しまれているかが分かりました。
経営概要
・労働力:2人
・経営面積:65haうち放牧地20ha(所有地18ha、借入地47ha)
・経産牛:30頭、育成牛7頭
・牛舎、堆肥舎、倉庫、トラクター4台、収獲作業機一式
就農支援制度の活用
・青年等就農資金
・農地保有合理化事業
経営の特徴
・放牧に適した牛づくり(牛体小さく、肢蹄強く、穏やかな気質など)
・牛の喜ぶ草づくり(ペレニアルライグラスの追播など)
・化学肥料や農薬をできるだけ削減した循環型の低コスト酪農を目さす
後輩へのアドバイス
・就農後は完全に気を休められる時が少なくなる(常に牛が気になる)ので、就農前までに隙を見つけて旅行など遊びに行くといい思い出になると思います。