海外派遣事業 研修生レポート

デンマーク

酪農 男性

<私を成長させてくれたデンマークでの出会いと発見>

 2005年10月27日から一年間、私のデンマーク酪農研修が行われた。研修に対する不安よりも期待する気持ちの方が大きかった。私はデンマーク酪農だけではなく、デンマークという国にも興味を持っており、それについても報告したいと思う。

1) デンマークについて
  <デンマークの概要と環境>
 デンマークは人口約540万人、国土面積が九州よりも小さく、500近い島から出来ている小さな国だ。四季はハッキリしていて、緯度は日本より高いが、近くを流れる暖流の影響で冬でも気温はあまり低温にはならない。
 デンマークには山がほとんど無い。一番高い山でも海抜はたったの147mだ。平地や緩やかな丘が広がり、北海道の十勝平野を軽く波打たせたようなイメージが近いと思う。地震はほとんど起こらない。雨が少なく、湿度も高くないため過ごしやすい気候だった。風の強い日が多い。

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 日本との時差は-8時間だが、サマータイム制を導入しているため、夏場は-7時間となる。夏は明るい時間が長い。白夜にはならないが、夜11時頃まで昼間のように外が明るく、その後薄暗くなった空が、夜中2時頃から再び明るくなってくる。逆に冬は暗い時間が長くなる。
 デンマークの公用語はデンマーク語だが、多くの人が英語も話すことが出来る。デンマーク語は英語とドイツ語に共通する部分が多く、英語とドイツ語それぞれに似た単語が混じって使われているという印象だった。
 
<デンマーク人>
 私の出会ったデンマーク人達は親切で明るくユーモアがあり、気さくで親しみやすい人達だった。デンマーク人は年齢の上下が関係なく、親しい仲同士ではお互いに名前で呼び合う。日本人なら年下が年上の人を呼ぶ時「~さん」と呼ぶが、デンマークでは「さん」付けで呼ぶことは少ないそうだ。私がオーナーを呼ぶ時も名前で呼んで良いと言われた。
 デンマーク人はオランダについで、世界で2番目に平均身長の高い国で、私の周りの人でもやはり身長の高い人が多かった。そのため台所や机、シャワーやトイレの便座なども日本のものより高く設計されており、身長があまり高くない私には高すぎると感じる場所がいくつかあった。しかし食卓のライトは私でも頭がぶつかることがあるくらい低い位置に吊るしてあり、さらにその明るさは全体的に暗かったため研修開始当初は違和感があったが、その環境に慣れてくるとデンマーク人とは全体を照らさず影の部分も楽しむという心のゆとりを持っている人達なのだと理解するようになった。またキャンドルも日常生活では欠かせないもので、クリスマスや食事会などの行事があるときはもちろん、普段の夕食時にもキャンドルに火を灯してその優しい明るさを楽しんでいるようだった。
 多くのデンマーク人は花が大好きで、どの家を訪問しても家の中には花が飾られていた。さらに国旗も大好きで、家族の誕生日の時には庭にあるポールに国旗を掲げたりメッセージカードに国旗のシールを貼ったりし、祝い事や行事がある時にもたくさん飾られていた。
 デンマーク人の休日の過ごし方はのんびりしている。天気の良い日は庭で日光浴をしたり、ガーデニングや庭の手入れをしたりとゆったり過ごしていた。また、部屋の改装もよく行っており、何でも自分達でやってしまうという印象だった。
 
<食生活>

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 食事は家で作って食べるのが基本で、外食はほとんどしない。食生活については、食事内容の順番が各家庭によって異なるそうだが、私のホストファミリーの場合は、朝は白パン(小麦パン)にジャムやチーズを乗せて、昼は黒パン(ライ麦パン)に様々な種類の具を乗せて食べ、夜はジャガイモと肉中心の温かい料理が出された。デンマーク人の中にはやはり肥満を気にしている人が多く、普段飲む牛乳はたいてい低脂肪乳だ。ホストファミリーは脂肪分0.5%の低脂肪乳をよく飲んでいた。デンマークの低脂肪乳は低脂肪でも甘みが感じられ、ほのかに草の香りもしてとても美味しかった。デンマークの牛乳や乳製品(特にチーズ)は種類が豊富で、様々な味の製品が売られていた。
 デンマークの多くのお菓子の中には「ラクリス」と呼ばれる、漢方の一種であるカンゾウのエキスを抽出したものが含まれていた。日本人の私には少し苦手に感じられた味だったがデンマーク人はみんな大好きだった。デンマークに行ったら、ぜひ試してもらいたい。

<デンマークの休日と買物>
 一般的に土・日曜日、たいていのお店は閉まっている。例外として、大きな街の鉄道駅内のお店や大きなショッピングセンターは開いていたりするが、開いてないお店の方が多いため、買い物はできるだけ平日の空いた時間にするように心掛けた方が良いだろう。これは宗教が関係していて、週末に教会でお祈りをするためだそうだ。
 ちなみにデンマークの通貨単位はDKK(デンマーククローネ)で、普段はkr(クローネ)で表示されている。(1kr = 約20円)

<各種手続き>

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  デンマークでの生活が始まると、最初に近くにあるコミュニティーセンターへ行き住民登録をする。住民登録が完了すると、数日後に自分の番号と名前、住所が記載された黄色いカードがもらえる。デンマークで身分を証明する時はこのカードが必要なのでいつも携帯しておく必要がある。

 研修生には、毎月研修手当が支給される。その時、お金の管理が簡単でオーナー側にも都合が良いということから、私の場合は銀行に口座を作り自分の口座に振り込んでもらった。デンマーク内にある銀行の中では「Dansk Bank」や「BG Bank」などがデンマーク国内どこにでもあり、ATMもたくさん設置されているそうなのでお勧めだ。また、帰国時に口座を解約する際、自分の口座の残額を簡単な手続きをするだけでそのまま日本の自分の口座に転送してもらえるので、お金を移す手段としては一番安全で確実な方法だと思う。

<デンマーク鉄道の利用>
 デンマーク国内では鉄道がかなり発達している。(デンマーク国鉄:DSB)研修生は移動する時の交通手段として、列車を利用することが一番多いのではないかと思う。そこで、「ワイルドカード」をぜひお勧めしたい。このカードを持っていれば、通常料金の半額で乗ることが出来る(一部区間を除く)。手続きは大きな駅の窓口で、指定の紙に必要事項を記入し175krを支払えば作ることが出来る。ただし、デンマークでは列車が遅れることは珍しくない。5分、10分遅れるのは普通で、時には30分~1時間以上遅れる事もある。そのため乗り換えをする時は、乗り換え時間に余裕があるように時間設定をする必要がある。

<クリスマス>
 デンマーク人の宗教はキリスト教で、一年で一番大きい行事は12月のクリスマスだ。12月になる前から町や各家々ではクリスマスの雰囲気が漂い、12月になると、毎週末は親戚宅に呼ばれたり、自宅に親戚を招いたりして食事会が行われた。また、子供達には伝説の小人から毎日お菓子や小さなプレゼントが届けられた。クリスマスイヴの夜には家族・親戚が集まり、食事をした後クリスマスツリーの周りで歌って踊って、クリスマスプレゼントの交換が行われ、とても賑やかで楽しい時間を過ごした。

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2) ホストファミリーについて

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 私のホストファミリーは酪農を経営するオーナーと、幼稚園で働く奥さん、学校に通う三人の子供達で、とても明るく楽しい家族だった。過去にも外国人の研修生を受け入れたことがあり、私のことは家族の一員として迎えてくれた。親切で心優しいホストファミリーの気遣いのおかげで、すぐに打ち解けることが出来た。私は、ホストファミリーと同じ家の一室を自分の部屋として使わせてもらい、食事もホストファミリーと一緒に食べさせてもらった。この家族は自分達のプライバシーなど一切関係なく、いつも本当の家族のように接してくれた。一つ屋根の下でのホストファミリーとの生活は、デンマークの生活・文化そのものを直に体験させてくれる最高の環境だったと思う。

3) 滞在農家の概要、私の仕事内容
 私が滞在した酪農家ではデンマークジャージー搾乳牛約120頭、レッドホルスタイン搾乳牛約15頭を飼養しており、デンマークの酪農家の規模としては平均的な所だった(デンマークの酪農家の平均的な規模:搾乳牛100~150頭)。年間乳量は7,000kg。畑作地面積は80ha、牧草地50ha、トウモロコシ畑40ha。
 ちなみにデンマークで飼養されている搾乳牛の品種割合は、ホルスタイン:約60%、ジャージー:30%、残り10%がその他の品種(レッドデニッシュ、ブラウンスイス等)だそうだ。
 牛舎はフリーストール、搾乳は1日2回のパーラー搾乳、給餌はTMRで1日1回ミキシングフィーダーにより給与していた。フリーストール内の除糞は、バーンスクレイパーが1時間に1回自動的に作動し、糞尿を牛舎中央の床下にある貯留槽へ押し流し、装置が届かない隅の方は人力で寄せていた。糞尿はスラリーストアに貯蔵し、春に溜まった糞尿を業者に頼んで畑に散布していた。
 夏には朝の搾乳後3時間程度放牧させていたが、2006年の夏はデンマークでは約30年ぶりの暑い年となり雨が少なかったことで牧草の伸びが悪く草量が少なかったため、例年より放牧時間を短くして対応していた。
 一部の農地管理では、小麦と牧草を混播して先に伸びた小麦が熱い日差しから牧草を守り、収穫期に小麦を刈り取った後は残った牧草で放牧地として使用できるという効率的な農地利用を行っていた。

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 ジャージーの牛乳は乳成分が濃いため、チーズ工場に送られ加工に用いられるそうだ。私がいた農家の牛乳もチーズ用に使用されており、2日に1回集乳されていた(生乳は毎日集乳される)。集乳毎に乳成分の検査が行われ、乳量・乳成分により乳代は毎回変動するそうだ。
 私は隔週ごとの土日に休みをもらい、労働日は約8時間仕事を行った。私の仕事は、主に仔牛の世話全般(哺乳・給餌・給水・小屋掃除・体調管理)、育成牛の給餌、除糞、搾乳、発情牛の観察で、その他随時機械修理の補佐や、牛舎内の清掃等を行った。
 仔牛の世話についてオーナーは「仔牛がいなければ成牛はいない」と話しており、酪農経営における仔牛管理の重要性を教えてくれた。私は仔牛の世話をほとんど任せてもらっていたので、その嬉しさと共に、日々仔牛たちの母親のような気持ちになって接し、仔牛の管理に責任を持ちながら仕事をすることが出来た。また、私の要領が悪くて仕事に時間がかかってしまい落ち込んでいた時、オーナーは「動物を飼養している仕事で、速く仕事をすることは良いことではない。速さに重点を置いていると肝心なことを見落としてしまうことがある。大切なのは時間ではなく仕事の中身だ。」と教えてくれた。

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 搾乳では、オーナーが朝の搾乳、私が夕方の搾乳を行い、パーラーは8頭ダブルのヘリンボーン式で、1回の搾乳時間はおよそ2時間程度だった。デラバル社製のこのパーラーでは床が上下に可動式で、身長の低い私でも床の高さを調節することで高さを気にせず搾乳することが出来た。しかし私はパーラーでの搾乳経験が無かったため、オーナーは、搾乳者の無駄な動きを出来るだけ省き、搾乳牛がパーラー内に滞在する時間を短くすることで、除糞と汚れたミルカー洗浄の手間を省き、搾乳時間を短縮させるという方法をアドバイスしてくれ、日々の仕事の中でもより効率的に働く方法を考え実践しているということが感じられた。

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 普段の牛舎内作業では、「ストールキャット」と呼ばれる小さな牛舎内作業機が大活躍で、人が重労働をする代わりにほとんどストールキャットで作業を行っていた。飼料を運ぶ、餌を寄せる、小麦ワラを運ぶ(掴んで運ぶ)など、作業内容に合わせてアームの先を交換でき、小回りが利くため重宝されていた。

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 デンマークには日本で言うコントラクターに当たる、農作業請負組織が存在し、牧草・コーンサイレージ調製、畑の管理、畑作物の管理・収穫等において、多くの酪農家がこの組織を利用している。これはたいていの酪農家で経営に携わっているのが一家のお父さんだけという形態が多いため、一人では牛舎管理の他に草地や畑地管理となると手が回らないことと、組織に依頼し作業を請け負ってもらっている間に別の仕事ができるという利点が大きく関わっているようだ。

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 デンマークの農家をサポートする団体として、デンマークの農協から年に数回、農家にアドバイザーがやってきて、乳質検査結果や粗飼料の品質検査、その他経営状況に応じて細かくアドバイスを行ってくれる。また、依頼すると経営に関する経理も行ってくれるため、農家にとって農協は心強い存在であるようだ。
 デンマークの農業学校のシステムについても報告したいと思う。デンマークの農業学校では、まず入学後2ヶ月間学校で勉強した後1年間農家で実習を行う。その後5ヶ月間再び学校で勉強した後、別の農家で2年間実習を行う。そして最後に5ヶ月間勉強して卒業となり、農業経営者の資格を得ることができる。学校で勉強した知識を実習の中ですぐに実践し確認できるため、より理解しやすく身につきやすいシステムになっている。

 デンマークの効率的な酪農経営は、機械の上手な利用による省力と時間短縮、力強いサポート団体の存在、そしてデンマーク人は家族との時間を大切に考えているため、作業時間をきちんと決めできるだけその時間内に作業を行うようにするための計画性から実践されているのだと感じた。

4) 思い出
 研修中の1番の思い出は、ホストファミリーと一緒に参加した全デンマーク共進会だ。私のホストファミリーは、毎年家族総出で共進会に取り組む「共進会家族」で、オーナーは共進会の審査員の資格を持っており、日々の人工授精から本格的に育種に取り組んでいた。近年は毎回良い成績を取っていたそうだが、2006年は例年以上にすばらしい結果になった。私達の出品牛は、各部門でそれぞれ上位入賞し、その中のジャージー牛1頭が、2006年のミスデンマーク(最優秀賞)に選ばれた。また、私は自分の名前と同じ「MAI」と名付けられたレッドホルスタインの育成牛を引っ張らせてもらい、歩行訓練の成果も出て、その部門では見事1位を取ることができ、自分が世話して育てた牛と一緒に1位を獲得できたことが心から嬉しかった。
 共進会中に感じたことは、共進会の裏方にたくさんの若い人達が関わっていたということだ。会場設営や出品牛の世話などの仕事に、若い人達が興味を持ち、自ら志願して積極的に参加していたことから、デンマークにおける農業の人気と意識の高さが感じられた。

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5) デンマークでの研修生受入機関のサポート
 私がデンマークでの研修を希望した時、北海道国際農業交流協会はデンマークで研修をしたいと考えている様々な国からの研修生を支援する受入機関と協力して研修先を探してくれた。受入機関を通じてデンマークで研修を行った人は150人以上に上るそうだ。受入機関では年に数回、海外から来た研修生達を対象にした行事を計画し、デンマーク内の有名な場所を訪問したり国内の行事に参加したりすることで、デンマークの歴史や文化への理解を深め、海外研修生同士の交流の場を設けている。私は受入機関の行事に積極的に参加し、デンマークで研修する様々な国出身の研修生と仲良くなることができた。集まる研修生の研修内容も野菜栽培、養豚農家、酪農など様々だったことから、自分の研修内容や母国について話し合い、とても刺激的で興味深い時間を持つことができた。

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5) 研修のまとめ
 デンマーク研修での一年間は、本当に時間があっという間に過ぎてしまったが、短い期間の中で私はたくさんの素敵な人達と出会うことができた。その中には、帰国した今でも連絡を取り続けている人達がいる。たった1人でデンマークに行ったということもあり、研修が始まった当初は1人で出歩くことにまだ少し不安があって外に出かける機会が少なかったのだが、ある時に何事も自分から行動しないと始まらないし、せっかくデンマークに来たのにじっとしているのはもったいないと考え、限られた時間の中でいろんな経験ができるようにと、休みの日にはできるだけ外に出るように心掛けた。様々な場所に出かけることでいろんな人と出会い、デンマークの歴史・文化に触れることで、デンマークをより理解することができたし、一人で行動することに自信が持てるようになった。デンマークで感じたことは、国や人種が異なっても、人がすること・考えることは同じであるということだった。私がデンマークで生活していた中で、デンマーク人も日本人も同じだなと感じる場面が多々あったからだ。
 この研修のおかげで人と出会うことの喜びを知り、自分の中の新たな一面を発見することができた。また、オーナーの一言一言がとても勉強になり、たくさんの思い出を作ることもできた。今後もデンマークで出会った人達との交流を続けて行きたいと思う。
 また、このレポートがこれからデンマークに行く研修生の皆さんに少しでも役立ててもらえたら嬉しい。これから研修に行く方へ:研修では時間が経つのが驚くほど早いため、決められた時間内でできるだけ多くの経験を得るために、いつも積極的、行動的になることを心掛け、一日一日を大切に過ごしてほしいと思う。
 
 最後に、この研修をサポートしてくれた北海道国際農業交流協会の皆さんとデンマークの受入機関、研修中に日本からいつも励ましてくれた家族・友人に、心から感謝したいと思います。この研修での経験は、これからのわたしの人生に大きく役立つことと思います。貴重な経験をさせて頂きありがとうございました。