酪農 男性
<オランダ酪農研修で学んだこと>
1. | はじめに 僕は去年1年間(平成19年3月28日~平成20年3月10日)海外酪農研修という形でオランダの牧場で研修生として働いてきた。将来、畜産に携わる仕事をするために現場を見ることは不可欠だろうという単純な動機のもと研修を行ってきたわけだが、結果としてこの1年間で酪農先進国であるオランダの多様な酪農技術やオランダ人の酪農に対する姿勢について学ぶことが出来たと思う。そこで今回このレポートでは僕がオランダで何を学び、何を感じたかについてまとめ、またそこから今度の日本の酪農に活用出来る事について考えていくことにする。 |
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オランダにおける農業支援指導体制から学んだこと オランダのヘルパー利用組合は収穫繁忙期の短期労働者や長期のヘルパーの派遣業も行っており、オランダ農業経済におけるヘルパー利用組合の役割は日本より大きいといえるだろう。また、酪農分野に限定しても日本より重要度は高かった。日本の場合、ヘルパーの仕事内容は朝夕の搾乳・給餌が大部分を占めるがオランダの場合業務範囲がもっと広く、休暇時の農作業代行はもちろん、削蹄や畜舎修繕、畜舎の洗浄・消毒などの専門技術作業もこなしていた。 これらの専門技術の中でも特に印象的だったのは削蹄で、牽引式の削蹄車を使い契約先の牧場の牛の削蹄を行うサービスは日本で見かけたことがなかったので、ぜひとも導入すべきだと感じた。また、ホスト農場に来ていた削蹄師曰くヘルパー利用組合の開講する削蹄師のコースを2、3週間受講することで資格を得られるらしく、ヘルパーとして経験をつみ独立する場合もあるらしい。舎飼の多い日本の飼養形態において削蹄師の潜在的需要は多いはずだが、削蹄師の後継者不足もあり治療を疎かにする傾向にあるのではないだろうか。そういった意味でも、日本のヘルパー事業も事業内容の拡大を視野に入れるべきだと思う。
(2)コントラクターによる支援システム (3)農業普及指導センターによる支援指導事業(デンマーク) デンマーク農業普及指導センターは日本でいう改良普及センターと研究センターが合わさったような機関で、農業に関する最新の情報を持った全国規模の農業サービスセンターである。国立の研究機関や海外の研究機関との関係も深く、それらの機関での研究結果の情報収集、分析、普及も行っていた。また、農家へのアドバイスを主に行っている地方指導センターと協力して事業を行っているので、研究者と農家の橋渡しとして重要な役割を担っているように見えた。さらに、農家や地方農業センター職員に対する教育事業なども行っていて、農業学校の様な側面もあった。運営は利用者である農家が加盟しているデンマーク農民組合連盟とデンマーク家族農業者連盟という2つの農民組織が出資して行っており、農業省からは独立しているらしく、収入もほとんどが独自事業で賄われているということだった。 また、デンマークには農業普及センターとは別に各地方に地方農業指導センターが設けられていて、これらも農業普及センターと同様に2つの農民組織の元に運営されているが、その業務内容は農業普及センターに比べると、農家に対してより直接的なサービスが主だということだった。特に農場会計や経営管理部門は、農家数減少とそれに伴う農場規模拡大により農家の経営管理が難しくなってきている中、その需要の高まりと共に重要性も増してきているようで、施設内の職員の数も多く感じられた。事実、ヘアニングの農業普及センター勤務のパレ・ホイ氏の話によると、実際スタッフのうちの7割程が農場会計・経営管理の担当者だということだった。 さらに、デンマークでは農業教育のシステムも優れていた。デンマークの農業学校では、まず入学後2ヶ月間学校で勉強した後1年間農家で実習を行い、その後5ヶ月間再び学校で勉強した後、別の農家で2年間実習を行う。そして最後に5ヶ月間勉強して卒業となり、農業経営者の資格を得ることができる。と、学校で学んだことを小まめに現場で確認できるようになっており、とても素晴らしいシステムだと感じた。日本では、こういった農業教育はなされていない。それは、農業教育機関に回る補助金等が十分でないことや後継者不足などの問題によるものだろうが、次世代の農業者の育成のためにも農業教育は充実させていかなければならないと思う。 |
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4. | 実際の現場(牧場)で働いて学んだこと (1)配属農場について ・農場の概要
・飼料
・育種会社(Holland Genetics)の乳量調査対象牧場としての特徴 まず、放牧が出来ない。牧草地は広大にもかかわらず、運河を介する他の牧場の牛からの伝染病の獲得が考えられるので放牧を全く行わず、通年で舎飼いなのだ。ただ、この点に関してはホストが放牧に対してあまり積極的ではなかったので彼らにとってはそんなに大きな問題ではないようだった。彼の意見としては、放牧草ではタンパク質、特に分解性タンパク質(DIP)の含量が多すぎてルーメン内の微生物が利用出来ずその分乳汁中の尿素が増えてしまうから嫌らしい。また、放牧草の採食量が牛によってバラバラになってしまうので餌の栄養バランスの管理が行いづらいというのも放牧反対の理由の1つだった。そう言われて確かにそれも一理あるとは思ったが、日本のように輸入飼料に依存している状況下での飼料穀物価格の高騰を考えるとそれらの問題よりも放牧の必要性の方が大きいと思われた。 メリットとしては、牛管理の委託金が大きいことが考えられる。残念ながら正確な金額は教えてもらえなかったが、色々な手間を考えると相当な金額をもらっていたと考えられる。僕が働き始めた4月時点では育成牛に関しても生後3ヶ月~20ヶ月ごろのものはHolland Geneticsに送り返して育成してもらっていたが、2月ごろには離れの牛舎の反対側のストールも整備し、全育成段階の牛を飼育するようにしていた。仕事量は増えたが、その分委託金も増えたと言っていた。 第2の特徴として飼育している牛のほとんどが初産牛であるということだ。研究牧場として後代検定的役割を担っていたので優れた牛が多く、極端に気性の荒い牛や乳量の少ない牛などはほとんどいなかったように思う。また、乳熱によるトラブル頻度も大変少なかった。他にも持病のある牛というのもあまりいなかった。また、ほとんど毎日初乳を得ることが出来るというのも良い点だった。IBR(牛伝染性鼻気管炎)のウイルス獲得の可能性を完全になくすために雄が生まれた場合は母乳を与えないようにしていたので、子牛に与える分以外の初乳の余剰分をたくさん得られたのだ。そしてそれらを冷凍保存し販売も行っていたので、そこは利点だったといえる。ただ、如何せん初産牛なので、分娩時の補助は随時必要だった。しかも、次々に新しい牛が送られてきており、平均すると1日1頭ぐらいのペースで分娩を行うので、その分の仕事の負担は大きかった。どうしても、夜中や朝方の搾乳時の分娩率が高いのでそれに気を使いながら仕事をしなければいけず、その点は大変だった。 ・体型審査について (2)多様な酪農新技術(搾乳ロボット、バイオガスプラント) オランダで実際に搾乳ロボットの使用状況を見るまで僕の中で搾乳ロボットというのは、楽をするために多額の設備投資で導入するものというイメージでしかなかった。しかし、実際には飼養頭数を増やすためや上述したように兼業農家として働くためなど新たな事業展開の補助としてロボットを導入しているところが多かった。日本でもこれを参考にし、自分の牧場で乳製品を製造するためのロボット導入など新事業展開のためのロボットとして搾乳ロボットを捉えていければいいなと思った。
・バイオガスプラント(湿式) さらに大きな課題として挙げられるのは売電価格と設備投資だ。事実、僕のホストもこの売電価格と設備投資に頭を悩ませていた。ホストの農場でも5000立方メートルの発酵槽を作る計画をたてていたらしいが売電価格にかかる政府補助金の展望がないこと、設備投資に少なく見積もっても100万ユーロはかかることを理由に諦めたという。もし、政府の補助金が現水準で継続して出され続けたとしても設備投資額の元を取るのに10年はかかる計算だったらしい。今現在オランダでは環境税による財源から政府の補助金が通常の売電価格に上乗せされ利益を得ることが出来ているがそれらが継続する保証はない。しかも、小規模プラントではガス発生量が少なく設備投資に対する利益の還元率が悪いのでどうしても大規模なプラントが必要になってしまう。万が一、国の援助がなくなると農家には設備投資のための借金のみが残ってしまうだろう。これらの解決策として発生ガス量の増加を考えていかなければならない。
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5. | オランダの酪農から日本の酪農が学ぶこと オランダの酪農は日本に比べ機械化が進んでいる。そのおかげか経営規模も全体的に大きかった。日本の畜産農家も今後オランダのように経営規模の拡大が進むだろう。その中で日本の農業者支援制度の充実というのは不可欠になってくると思う。特にヘルパー事業とコントラクター事業に関してはオランダの事例を参考に改良していくべきだと思う。また、農業教育ももっと国を挙げてなされていくべきである。 技術面で言えば、やはり搾乳ロボットの普及が日本でもなされるとよいと思う。ただ、導入に際し必要なコストも大きいので、ロボット導入によって出来た時間を有効活用できるように考えることが重要だ。次にバイオガスプラントに関してだが、これは飲食業との連携が不可欠であるといえる。しかも、搾乳ロボットと違って導入するためには大規模農場でなければいけない。とにかく現時点ではリスクが大きすぎると思う。これらのもの以外にも新たな酪農新技術が生まれてくるだろうが、それらを利用者である農家に対し普及する場というものが必要である。 環境保全に関しても日本がオランダ及び他のEU諸国に学ぶことは多いと感じた。オランダでのミネラル収支制度は、残念ながらもう実施されてはいなかったが、窒素・リン酸のインプット量とアウトプット量を数値化するという考え方は日本でも行われるべきだと思う。日本全体としては、また、EU全体で行われている家畜単位による飼養頭数の制限というのも飼養頭数増加が予想される中、実施されるべき制度である。日本の場合、オランダほど地下水・土壌汚染は深刻な問題ではないが、それでも地域によっては処理能力を超えた負荷がかかっているはずでそれらを規制するというのは持続可能な酪農を行うためにも必要なはずである。 最後に今後の日本での飼養形態についてだが、オランダで濃厚飼料多給の飼養を中心とした牧場で働いてみて、やはりこれから重要視されるべきは放牧だというのを実感した。オランダでは飼料価格の高騰と共に乳製品の価格も上昇していたので購入飼料の給与もそこまで問題ではなかったが、日本の場合は業者による乳製品の購入価格はあまり上昇しておらず自給飼料での飼養が至上命題である。 さらに自給飼料の中でも放牧草はいろいろな面で優れていると思う。確かに栄養管理は難しいが、収穫も保存も行わなくてよいというのは大変魅力的だ。また、放牧は舎飼いに比べて牛にかかるストレスも少ないはずで、蹄病などのトラブルも回避できるだろう。本州の場合、畑に利用出来る土地をはじめ採草に利用出来る土地が限られているため山間での放牧というのも視野に入れなければいけないが、自給飼料での飼養を中心にするための有効な手段であることは間違いない。北海道の場合は採草によるサイレージの給餌というのも可能だが、やはり設備や労働力を考慮すると放牧の方が望ましいと感じた。 |
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研修生ならではの経験
また、ホストに頼んでホストの知り合いの酪農家を見学することも出来た。特に近所の農家は頻繁に見学に訪れた。自分の滞在していたのはFrysland地方という田舎だったので、その分近隣の農家との繋がりも深かったように思う。(親戚が近隣で就農しているケースも多かった。)隔月ぐらいの間隔で、成績の良い農家や新しい設備を導入した農家が公開日を設けたり、と経営状況の向上にも積極的であった。この他にも、バカンスや週末を利用してオランダ以外の国に旅行したり、お祭りに参加したりと色々な体験が出来た。 これらの経験は、もちろんホストの理解があってのことだったが、やはり研修生という立場によるものが大きかったように思う。任される仕事内容が限られてしまう等のデメリットも多少はあったが、それらを超えた、研修生ならではの貴重な経験が出来たことは大きな意味を持つと思う。 |
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7. |
最後に また、僕自身初めての海外生活ということで、食文化の違いや言語の壁など戸惑うことも色々とあった。しかし、だからこそ得るものも多かった。オランダ酪農から日本の酪農に活かせることを見つけようと意気込んで研修を行ったが、それを考える以前に必要である農業や酪農業に関する知識の少なさに気付くきっかけにもなった。幸いなことに、僕にはまだ学生生活が残っている。これまでは、大学で学んでいることが実社会に本当に活かせるのか?などと知識もないくせに理屈ばかり考えていて、学ぶ姿勢というものを忘れていた気がする。だから、とりあえず今は学業にもっと力を入れ、この1年間の経験が活かせるよう心掛けなければならない。 |