酪農法人で知り合ったお二人、夢を描いて新規就農 🐮酪農
酪農法人従業員からの独立就農 ~自分の農場を持てて本当に良かった~
Aさん(35歳)配偶者Aaさん(41歳) 2022年12月就農(取材:2024年8月5日 O記 協力:下川町役場)
【地域の概要】
下川町(シモカワチョウ)は、北海道北部にある人口約3000人が暮らす町で、森林に包まれた自然豊かな農山村地域です。面積の9割を森林が占め、農林業を基幹産業としています。
畜産では、酪農が下川町の農業生産額の約7割を占めており、労力の軽減と良質飼料の確保を目的にTMR センターが設立され、経営の安定化を図っています。
また、高収益作物生産による集約型農業を推進し、フルーツトマトなどの高収益作物の栽培が促進され、主に本州の市場に出荷し贈答品などとして使われています。
新規就農は、酪農とフルーツトマトが中心です。受入体制や技術指導が徹底しており、支援策も手厚く、就農後も5年間は巡回指導による技術支援があり、新規就農者の安定した経営に繋がっています。
【動機から就農まで】
Aさんは茨城県出身、理系の大学を2013年3月に卒業しエンジニアとしてプログラマーになったのですが、たまたま職場の近くに競馬場があり動物に愛着を抱きました。農業求人サイトのトップにあった新得町の酪農法人へ電話すると、社長からの「来い」の一言で2015年3月に法人従業員となりました。
Aaさんは愛知県出身、幼いころから牛が大好きで、高校卒業後に新得町のレディースファームにて1年間研修しました。その後、洋服好きだったこともあり、10年間は地元愛知県でアパレルの販売職をしていましたが、やっぱり牛が諦めきれず、以前お世話になっていた新得町の酪農法人へ2015年1月に就職しました。
きっと赤い糸で結ばれていたのでしょう、お二人は2015年に新得町の酪農法人で出会いました。従業員仲間として交際し、2017年にご結婚。
勤め先の酪農法人は大規模が故に分業化されていたため、もっと酪農の全てに携わりたいと思い、2018年9月に幕別町の小規模な酪農法人へ転職しました。
酪農を知れば知るほど魅力が深まり、いつしか自分たちの牧場を持つことが夢へと変わりました。お二人で北海道農業公社へ相談に訪れたのは2019年4月でした。
下川町を選んだ決め手は、①夫婦二人でやるのでTMRセンターと育成牛の預託施設があるところ、②日常生活に不自由のない生活環境(病院やスーパーなど)、が合致しました。下川町に行ってみると、関係機関の皆さんが親身に相談に乗ってくれたので安心しました。研修期間は2年、下川町の牧場を2か所経験させて頂きました。
新規就農した農場は、酪農を辞めて数年が経過していたため、改修工事の資金面で、どこまでやって、どこを諦めるかの選択に苦労しました。もちろん不安もありましたが、就農は嫁さん(Aaさん)の夢でもあったので背中を押されましたし、改修後のフリーストール牛舎でやれることでモチベーションも上がりました。
【就農してから】
「先代のやり方を教われない中で手探り状態でした。2022年12月に就農し、分娩が4~5月に集中し大変でしたが何とか乗り越え、7月に全頭無事に出産を終えました。乳房炎や蹄病も経験しましたが、事故や廃用牛もなく2年目を経過しています。導入牛をいかに事故なく飼うことができるか、またロスなく飼えるか、勉強することが沢山あります。」とAさん。
酪農法人に勤めていた時と変わったことをAさんに聞くと、「誰に何言われることなく自由にできるので、やりがいがあることです。また毎日仕事なので、予想以上に休めないことも実感しています。酪農ヘルパーの利用については、自家産の後継牛が揃ってくると少しは安心できると思いますが、まだ導入牛のことが心配で「あとはヨロシク」とは言えない状態です。」と自由にできる反面、より責任感が伴うようです。
「やっぱり我が家の牛は一番かわいいです。一頭一頭に愛称を付けて、愛称で呼んでいます。」とAaさん。因みにご夫婦の写真中央にいる牛は「チヨちゃん」の愛称で可愛がっているマスコットガールで、疾病なし。受胎率よし、おまけに懐っこいと3拍子揃った最高な牛だそうです。アパレル業界にいたAaさんは、Tシャツやジャケットに「チヨちゃん」をプリントして、牛飼いの暮らしそのものを楽しんでいます。牛舎内には「牛と共に聴きたいプレイリスト」が流れ、牛も人もゆったりとリラックスした表情で穏やかです。また、搾乳室に牛を移動するときは、「ハイ・ホー」を毎回流し、条件反射で牛に音楽で動いてもらえるように訓練しているそうです。
最後に「大変なこともあるけど自分の農場を持てて本当に良かった。」と語ってくれました。
【番外編】
新規就農後、お二人のご両親やご兄弟が下川町を訪ねて来られるそうです。Aaさんの姉が一度下川町に遊びに来られて、すっかり下川町に魅せられたそうで、今では下川町の住人に。牛舎に飾ってある大きなリースは姉の作品だそうで、リースの材料に事欠かない下川町と縁があったのかも知れませんね。
【経営概要】
・労働力:2人
・経営面積:4.7ha
・経産牛:54頭、育成牛 27頭
・牛舎、乾草庫、堆肥舎、ホイルローダー
【就農支援制度の活用】
・青年等就農資金
(以下は町独自の制度)
・新規就農予定者貸付金(研修2年間上限に月20万円、経営5年継続で免除)
・農地等賃借料補助(農地や施設等の賃借料の1/2以内を補助)
・農業制度資金等補助(農地施設等取得の借入金の1/5以内、上限1,000万円)
・固定資産税補助(農地や施設の固定資産税相当額を3年以内補助)
【経営の特徴】
・将来的な労力も考え、TMRセンターや預託施設を利用
・アニマルウェルフェアを根幹に牛が能力を最大限発揮できる環境作りに努める
【後輩へのアドバイス】
・就農まで長いですが、あせらず、くさらず、あきらめず、頑張ってください。