オランダ

酪農 男性

<オランダ農業研修報告書>

1. 派遣期間
2006.3.30~2007.3.21
2. 配属農場について
・農場の概要・特徴
繁殖農家(ブリーダー)。雄の繁殖も行っている。 
経産60頭。小さい家族経営の牧場。
初産:2産:3産=30:20:10と、更新が早い。オランダの酪農会社と提携して、いい種を選んでいる。

・農場主の経営に対する考え方・取り組み方
市場での評価の高い(能力の高い)牛をつくる。 
快適な環境を牛に提供する。
成績の悪い経産は、胚芽摘出の際の代理腹として使う。
機械化を積極的にしており、省力している。 
自分で故障部位を直す。

・ライフスタイル 
毎日寝坊。 
食事は質素。 
外出はしない。
バカンスをとらない。

3. 研修内容
搾乳時、出産時はホストのサポートにまわる。 
掃除、給餌、そのほかのことは全て一人でやる。
牧草の刈り入れ、乾燥作業もする。 
庭掃除、芝刈りもやる。 
ゲストハウス作りの手伝い。
4. 研修成果
牛の行動から、自分がどう行動すべきかがわかるようになった。 
放牧酪農の1年の流れがわかった。
機械による給餌や運搬などの作業もスムーズにできるようになった。 
牛、餌などの酪農における良し悪しの判断ができるようになった。 
(いい牛、いい牧草を見分けられる) 
牛の健康管理で注意してみるポイント(蹄、乳頭など)がわかった。 
酪農地域を取り巻く環境の充実を知った。
日本とオランダ(ヨーロッパ)の違い。
オランダの環境への取り組みがわかった。
5. これからの研修生へのアドバイス
 僕のホストが特別だったのか、僕のホストはイモ以外を食べようとしなかった。
僕が日本料理を作ろうとしたら、食べないといわれた。 
 交流協会の担当者が持ってきた日本のお菓子も、手をつけないまま結局しけてしまった。お土産として食べ物はあまりよくないのかもしれない。

 オランダ語ができたほうがよかったかなと思うことが度々あった。
オランダ人がみんな英語をできるというわけではなく、地元の人とコミュニケーションをとることが難しかった。


6.
その他
 この1年が楽しかったことは間違いないのですが、これが有益であったかどうかというのは、もっと先になってみないとわからないと思います。 
 ただ、日本でよいと思われていることが、オランダでは違っていたり、色々な違いを実感できる機会であったので、それを良い方向に育てて生きたいと思います。

 抽象的にしか知りえなかった「牛」を身近に感じられるようになり、個々の違いを認識できるようになりました。
 それは今後「牛」を研究対象にした場合に、大きな意味を持つかもしれません。

オランダは小さい国ではありますが、大陸の中のいることにより、いろいろな情報を多方面から吸収できる優位性をもった国だと思いました。

例えば、牛の頭数もさることながら、ドイツ、イギリス、フランス、スイス、アメリカなどから優秀な種を得やすく、日本の何倍のスピードで改良が進んでいることがわかりました。

日本の酪農界、農業界はこれからさまざまな局面を迎えると思いますが、こうしたオランダの見習える分は吸収していこうと考えています。

7. オランダ酪農の特徴
1.コントラクターの導入
 私がまず、オランダ酪農の魅力に惹かれた点が、サイレージや乾草を作る際にコントラクターと呼ばれる請負業者に委託する仕組みが確立していることです。

 コントラクターの導入によって、業者は扱う機械を大型にすることができ、作業の効率化を進めることができます。ここで酪農家の支出は増えるように思えますが、年に数度しか使わない機械を買う必要がなくなり、そしてなにより牛を見る時間が増えるというメリットが生まれます。大規模化が進む北海道には欠かせない考えだと思います。

 コントラクターの仕事を詳しく述べると、春は牧草地の更新のための播種から始まり、コーン農地の耕起と播種。夏、秋はサイレージ・乾草の作成、堆肥の散布。冬は放牧地や草地の改良。といったように一年を通して何かしら仕事があります。

 私が行った年は、天候不順で牧草が育たなかったため、コントラクターの仕事が減り、彼らは牛の毛刈りをするなどして仕事を作っていました。北海道に当てはめるなら、春夏秋は同じでも冬は除雪をするなど、北海道の地域性を持った仕事を産出できると思います。

 次に、誰がこのコントラクターの働き手となるかを考えたいと思います。オランダの場合、代々コントラクターをやってきた家があり、そこに酪農家や養豚農家の息子たちが働きに来ていました。まだ親が十分に働けるから、重機の操作を覚えるためといった理由で働いていました。北海道でも町にある自動車工などを中心に、まだ就農する前の担い手の方々が働けば仕事をまわしていけるのではないかと考えます。

2.獣医、受精師、削蹄師の充実
 次に惹かれた点がこれです。私が日本で研修していたとき、牛の検診、受精は獣医さんが、削蹄は酪農家さんがといったような感じで行われていました。私がいたオランダの田舎でも、それぞれにプロが存在して、各々がプライドを持って活動をしていました。

 特に受精師は、ET(胚移植)の資格も必要らしく、改良が盛んなオランダならではのことなのかと感じました。また日本でも年に2回の削蹄が推奨されていますが、削蹄師の数がまだまだ足りず、実践には至っていないようです。

 オランダでは、日本で言うヘルパーの方々が削蹄の免許をもっていて、放牧期の開始時と終了時に行っているようでした。
こうした人材の配備は、酪農家の負担を減らすだけではなく、牛たちの環境水準を上げるものだと思います。

3.環境に対する配慮
 オランダは非常に環境に対する規制が多くある国だと思いました。
まず、糞尿などが自然に還元できる範囲内の頭数しか飼うことができない。糞尿なども環境に負荷のかかるものとして税金がかかるといっていました。
また、肥料を撒く量も制限があり、一定量しか購入できないそうです。

 そして、バンカーサイロやラッピングサイロのビニルや、肥料の袋などは自分の家で焼くことはできず、年に1回の回収まで保管しなければならないそうです。
日本はまだまだ環境に対する配慮は遅れていますが、もしオランダのように土地に対する牛の頭数といった規制がかかると、農地の少ない日本の酪農は成り立たなくなってしまうかもしれません。

4.生産調整
 今日本でも生産調整として牛をつぶすなどの事態になってきています。オランダも例外でなく、生産過剰に陥ったことがありました。そこで、クォータと呼ばれる生産調整法をとっていました。

 それは年間でオランダが生産できる乳量を一定にするというもので、各酪農家が生産できる乳量も一定に定められているというものです。もし、乳量を増やしたければ他の農家からその権利を買うなどして得なければなりません。

 もし、クォータの生産量を超えてしまった場合、罰金がかせられるようです。乳価が安くなる1~3月は生産調整期で、多くとりすぎた牛乳を牛に飲ませたり、堆肥場に捨てていました。とてももったいない感じがしました。

 しかし単純に牛の頭数を減らしても、乳量は減らないわけで、生産調整を行う上でクォータという方法は一番有効なのではないかと考えます。

5.最後に
 今まで、私がオランダ酪農に惹かれた取り組みについて語ってきましたが、オランダ酪農の全てがいいものだとは感じていません。

 改良がすすみ、よりよい牛が産まれた反面、代謝病に悩む牛の数は増えており、薬物なしには上手く生活できない牛も少なくありませんでした。蹄病、乳熱、乳房炎といったものは、人間がよりよい牛を得ようとして、牛たちに負担を与えてきた結果だと思います。

 こうした状況が果たしてよいものなのか、これからいろいろ考えていかねばならないと思います。

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