海外派遣事業 研修生レポート

ニュージーランド

農業 男性

<ニュージーランド農業研修を振り返って>

 農業研修に行った目的は農業体験と語学力の向上です。私は非農家ですが、もともと農業に関心があり、大学で園芸学(野菜と果樹)を専攻しています。就農する可能性を考え、大学での勉強だけでなく、実際の農家生活の体験もしてみたいと日ごろから思っていました。また今後の日本の農業や食品事情を考えると、それらに精通し、かつ英語の話せる人材が必要になるだろうと思い、同時に、英語をしゃべれるようになって世界を旅行したいとの単純な欲求から、ニュージーランド農業研修を試みました。以下、私の研修した内容をありのままに書こうと思います。

1件目 J & S produce farm
<家族>ヨハン・ラーン(オランダ人)、ソニア(タイ人の奥さん)
<場所>ケリケリ
<期間>2008.4.4~2008.7.10,2008.12.4~2009.1.11
<品目>
秋季:ズッキーニ
春季:トウモロコシ、ズッキーニ、マオリポテト、ポテト、サツマイモ、ナス、ピーマン、バジル、タイバジル、豆類、シャロット、スイカ、カボチャ、キャベツ、ブロッコリー、 カリフラワー、キュウリ類、レモングラス、コリアンダー

<農場の概要>
●1回目の訪問時
 ニュージーランドへ来て最初の農家です。と同時に2回訪れた農家でもあります。農業って大変!!ということを思い知らされました。ここではズッキーニの収穫がメインの仕事でした。ズッキーニは肥大が早く、一日でも放置すれば大きくなりすぎて規格外になってしまうため、雨の日も風の日も毎日収穫でした。収穫量の多い日は日の出から日の入りまで作業しました。収穫バケツを片手に、かがみながらズッキーニを収穫していく作業は、すぐに腰が痛くなります。最初の1週間は特に腰痛がひどかったです。非農家である私が、農業に毎日携わるというのは、今までになかったので、「これが農家生活か」と、大変さを思い知らされました。私の作業は大体夕方の5時か、遅くとも6時に終わっていましたが、その後ソニアさんとヨハンさんは、収穫したズッキーニのパッキングを行っていました。底なしの体力と根性に頭が上がりませんでした。また5時で音を上げていた自分が情けなくなりました。

 私が訪れた農場の中では、この農場は唯一アルバイト代を支払っていただける所でした。その代わりに自炊しなければなりませんでしたが、20数年間日本食で育って来た私としては、和食を作って食べられるという点では好都合でした。当然食費は自分で払わなければなりませんが、お金はその後のニュージーランド生活に不自由ないくらいに貯まりました。

●2回目の訪問時
 2回目に訪れた時は前回と違い、多種多様な野菜を生産していました。そのため、作業内容は「今から2時間でポテトの掘り起こし!その後ズッキーニの収穫!次にキャベツ、ブロッコリー、カリフラワーの移植!最後に豆類の収穫!」というように毎時間と言える程、コロコロ変わりました。忙しくも多様な作業を体験させてもらいました。

 また農作業だけでなく、直売所の店員もしました。ヨハンさんは農場を2つ持っており(以前は3つでしたが、そのうちのカイタイアの農場は売りました)、一つが自宅兼農場で、もう一つはケリケリの近郊にあります。この農場に直売所を設けており、ここで店員の業務をさせていただきました。交通量が多い国道に面していることもあって、9時もしくは10時オープンから5分おきに来客のある、繁盛しているお店です。基本的には一人で店員をするのですが、商品があまりの勢いで売れて行くので、接客の傍ら、商品の補充、補充で、非常に忙しかったです。昼ごはんすら食べられない状況も何度かありました。様々なお客さんと交流を持てたからです。「今日は暑いねぇ」という何気ない会話から、「今からビーチに行ってバーベキューするんだ」「じゃトウモロコシがいいよ。朝取ったばかりだから、最高だよ」と売り込むこともありました。熱心なお客さんは、「どうやって栽培したの?」「農薬は使っているの?」「いつ収穫した野菜なの?」と尋ねてきます。それらに答えるのは大変でしたが、英語の練習にもなりましたし、多くの方と農作物について話す貴重な体験を得ることが出来ました。一般の方の食品への関心が高いことも分かりました。
 
 なお、ヨハンは直売所だけでなく、毎週日曜に開催されるマーケットにも店を出しています。このマーケットはケリケリの中心部の駐車場の一角で開かれ、野菜や果物、ワイン、クラフトなどを販売するお店が出されています。地元客から観光客まで多くの方が来ており、大変活気のあるマーケットなのですが、ここでも直売所同様、販売員の体験をさせていただきました。収益は教えてくれませんでしたが、物が飛ぶように売れていたので、かなり儲かっていたものと思います。
 
 現在、日本でも地産地消が強く振興され、直売所がニュースで取り上げられる機会が多くなっていますが、直売所はただ商品を売り買いするだけの場所ではなく、農村部の人と都市部の人が交流する場として活躍する貴重な場所でもあると実感しました。

<生活>
 この農場で最も嬉しかったのは、「私の子供」と言われたことです。直売所でソニアさんと2人で野菜の販売をしていた時のことですが、その日はたくさんのお客さんが来店して、とても忙しい日でした。夕方に近づくにつれ、店が徐々に落ち着いてきた頃、店にあるお客さんがやってきました。しばらく商品を選び、その後レジにやってきたのですが、その折に、私とソニアさんを見て、「親子?」と尋ねてきました。ソニアさんはタイ人なので、アジア系の顔で間違ったのかもしれません。「いやいや、ワーカーだよ。」と言うのかと思っていたのですが、ソニアさんは「そうだよ、私の子供だよ」と言ってくれました。冗談と分かっていても、この言葉ほど嬉しい言葉はありませんでした。失敗ばかりで、仕事も遅く、迷惑をかけていた私でしたが、すごくかわいがってもらったと思います。この家族と信頼関係を結べたことが、ニュージーランド生活一番の財産となっています。この農場に来てよかったと思える出来事でした。

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ズッキーニ畑の様子 日曜のマーケットで野菜を売っているところ

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ホストファミリーと いたずら好きの3兄弟、たまに畑を荒らす

 

2件目 Care Taker Farm
<家族>オードリー、ドロシー、タマラ、トーマス
<場所>ワークワース
<期間>2008.7.12~2008.7.26
<作業>コンポスト作り、除草、鶏・豚・犬の世話、薪割り

<農場の概要>
 ウーフの一つで、パーマカルチャーを実践しています。パーマカルチャーについての説明はhttp://www.pccj.net/まで。オードリーさんは自宅でこれを実践しながら、同時にオークランド大学で法学の講師をしています。理想はパーマカルチャーだけで暮らすことだそうです。ウーファー(研修生)をたくさん受け入れている農家で、私が行った時はドイツ人1人、フランス人2人、イギリス人2人、日本人1人がいました。

 この農場の特徴は物質の循環を考えていること。その流れの中に人間と動物と植物を組み込むことを考えて生活しています。山を一つ持っていて、そこにはガーリック畑、ハーブ畑、果樹園、ニワトリ小屋、ブタ小屋、コンポストエリアなどがあります。ニワトリは小屋でも飼っていますが、いくらかは外で放ち、栽培しているハーブや野菜につく虫を食べさせています。自然の鳥や七面鳥もやってきては、同じように虫を食べさせています。そして糞を堆肥として利用します。家の中にコンポストトイレがあり、貯まったし尿は最終的にウッドチップや鶏ふん、食物残渣と混ぜてコンポストにしています。ウッドチップは山の木を切り出して作ったものです。山の木は薪としても利用しています。薪は家の暖炉で使われ、灰は肥料として用います。これらの肥料から作った野菜やハーブを食べては、再びコンポストとなり、余った食物残渣は動物の餌やコンポストの材料となります。このように植物と動物と人をつなげて、その環の中で生活しています。

<生活>
 多くの外国人と共に生活するとのことで、楽しみにしていたのですが、この時点ではまだ英語がきちんと聞き取れず、なかなか話に加われないで、つらい思いをしました。
 でもパーマカルチャーの考えを学べたのは、貴重な経験だったと思います。その後、有機農業に関心を強く持ち出すようになったのは、この農場がきっかけでした。2週間しか滞在しませんでしたが、もう一度行きたいと思える農家でした。

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ニワトリ小屋 コンポストトイレ

 

3件目
<家族>グレアム、アン(奥さん)
<場所>タウランガ
<期間>2008.7.26~2008.9.13
<品目>トマト、葉物の水耕栽培、豚、果樹、自家消費の有機野菜、
<作業>トマトの収穫、脇芽取り、誘引、ハウスの掃除、豚の世話、翌年度の野菜の播種

<農家の概要>
 この農家ではトマトを商業的に水耕栽培しています。水耕栽培とは土を使わず、養分の溶けた養液だけで栽培する方式です。一般的にはトマト苗の固定のために、ロックウールなどの固定層を使いますが、この農場は使っていません。苗の根を流水中に浸しているだけです。ロックウールの廃棄処分がなく、環境に優しい方法でした。また農薬の使用量を出来るだけ減らそうと、温室内を清潔に保ち、天敵昆虫を導入していました。この昆虫はコナジラミに対して天敵となる昆虫でEncarsia formosaと言います。

 トマトの栽培とともに、豚の飼育もしています。家庭での消費が主な目的ですので、2、3頭の親豚と、10匹前後の子豚を飼育しています。子豚は後のオークションで売りに出されていました。特徴的だったのが飼料です。賞味期限切れで回収になった牛乳やパン、いびつな形で出荷できないキウイフルーツなどでした。これらを週2回、町の集荷工場や配送会社などから集めます。料金はほとんどかかりません。配送費+α程度です。またキッチンから出る野菜くずや、出荷できないトマトも与えています。処分されるはずの食品をうまく利用し、最終的には自分のメインディッシュとなるようにしていました。実践してみたい廃棄食品の有効利用法だと思いました。

<生活>
 この農家で特に教わったのが、「丁寧にきちんと仕事をする」ことです。トマトハウスの床は白いビニールシートで覆われています。光を床で反射させ、上からも下からもトマトに光を当てて、光合成を促進するためです。光の量が少ないと、植物の茎や葉の生長だけが進み、そちらの方に栄養分が取られるため、トマト果実に栄養分が回らず、おいしいトマトができなくなってしまいます。温室の片付けの際に、このシート磨きをしましたが、1回で終わるのかと思いきや3回も磨きました。磨いた後はツヤツヤでした。シートだけでなく、養液タンクも汚れがゼロになるまで綺麗にしていました。でもそこまでしないと、次の年度においしいトマトができないそうです。中途半端で終わらず100%きちんと仕事をすることが、おいしいトマトの生産につながると教えてくれました。これは農業だけでなく、全ての仕事に関しても同じだとおっしゃっていました。

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水耕栽培の様子 オークションにかけられる子豚たち

 

4件目
<家族>ラッセル、ゴードン、パット、(アシュリー:隣に住んでいるラッセルの兄)
<場所>タウランガ
<期間>2008.9.16~2008.10.18
<品目>ビブレナム、その他花卉、アルパカ
<作業>剪定、仕分け、パッキング、家のペンキ塗り

<農場の概要>
 ファームヘルパーという形で、この農場に滞在させて頂きました。仕事としては、花木の剪定、花の収穫と仕分け、家のペンキ塗りでした。剪定には肩の力が必要で、一日中剪定鋏みを使う作業には苦労しました。花の仕分け作業自体は肉体的に楽な作業ですが、茎の長さと花の数で分類するのに、正確さとスピードが必要で、集中力を使いました。花農家に滞在したのは初めてでしたが、花と接する仕事はそれ自体で心洗われるというか、穏やかになるというか、仕事で癒されました。

<生活>
 ニュージーランドでの生活で、最も穏やかで平和な日々を過ごしました。ここでのホストファミリーは主人ラッセルと、その父ゴードン、その母パットの3人ですが、とにかく人がいい。その3人が作る雰囲気が最高に素敵です。素朴で、優しくて、優雅で、ゆったりと生活していて、そして笑顔が素敵なみなさんです。
 
 正直な所、農業の勉強というより、英語の勉強が主な目的でした。ラッセルとパットは英語の先生です。日本人留学生を頻繁に受け入れており、私は日本人留学生2人と共に生活しました。私は留学生ではないので、授業は受けず、昼間は農作業を手伝っていましたが、休憩時のティータイムや、食事、仕事上がりなどは、ラッセルやパット、ゴードンとよく話をし、ある意味で英語の授業を受けていました。特にパットはしゃべり方がゆっくりとしていて、分かりやすい言葉で話してくれます。留学生らと共に会話を楽しんでいました。ラッセルは地域の観光や歴史などに精通しています。食事中などはその話を聞くのが楽しく、時に何時間も話すことがありました。実際に他の留学生と共にその場所に行くこともありました。例えば、コロマンデル半島やトンガリロ国立公園。マウントマウンガヌイやワイナリーに連れて行ってもらったこともありました。この農場を出た後は南島を旅行する予定だったので、旅のプランニングを手伝ってもらい、おススメの観光地なども紹介してもらいました。

 農業の勉強≦英語の勉強に重要度を置く期間は、多少なりともあると思います。そんな時にはここでの滞在がお勧めです。

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マウントマウンガヌイからの景色 ホストファミリーとの記念写真

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アルパカも飼っている ビブレナム、分類が終わり、これから箱詰めされる

 

5件目Grown in Hope
<家族>ブレント、ケヴィン、テリー
<場所>ネルソン
<期間>2008.10.28~2008.11.16
<品目>キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、チンゲンサイ、タマネギ、ニンニク、レタス、ホウレンソウ、コリアンダー、バジル、ナシ、リンゴ、ナッツ類、ヤギ、鶏
<作業>ホウレンソウの間引き、タマネギの定植
コンポスト作り、除草、マーケット野菜の収穫
ヤギの乳搾り、薪割りなど

<農場の概要>
 南島最初の農家です。オーナーや同居人の人柄が良く、ウーフの中でも人気の高い農場です。有機栽培で上記のような作物を商業生産しています。この農場の特徴は、コンポストのユニークな製造方法、病害防除技術、販売方法だと思います。またこれらを惜しみなく、来訪した方々に広めています。私は3週間程しかいられませんでしたが、時間が許す限り長く滞在していたかったです。以下、この農場の特徴であるコンポスト、病害防除技術、販売方法について書きます。

 コンポストはおがくず:羊の血や内臓=3:1の割合で配合しています。大体3トン対1トンくらいで混ぜていたと思います。また魚や鶏の残骸も混ぜています。これら材料はみな地元で産出される不要となったゴミ(貴重な資源)です。例えば、おがくずは近所の材木工場で出た廃棄物、羊の血や内臓も近所の食肉加工場(だったと思います)で出た廃棄物、魚の残骸も同様です。材料全てが廃棄されるような物で、ブレントはこれらを無料でもらっていました。コストは輸送費だけだそうです。

 この農場では不耕起栽培を実践しています。従来の耕起栽培とどちらがいいのかは、メリット・デメリットともにあり、判断が難しいところだと思いますが、彼は土に負担をかけない農法を徹底していました。作ったコンポストは土地の表面に撒くだけで、土中に混ぜ込みません。土中の微生物を活性化させるために、土に蜜液を蒔くのも面白い技術でした。病害虫害防除技術としては、輪作体系をメインに、害虫を食べる虫や訪花昆虫(ハチ)を呼びよせる花の定植、コンパニオンプランツの導入などをしています。それでも虫害がひどい時は、硫黄のスプレー(有機農薬)をするそうです。

 出荷先は、地元のレストランや有機野菜を取り扱う地元のスーパーマーケット、毎週土曜に行われる路上マーケットです。この路上マーケットは町の中心にある大きな駐車場で開催されています。規模が大きく、野菜や果物を売る八百屋だけでなく、観葉植物屋、パン屋、ソーセージ屋、レストランなども出店されています。ネルソンは多くの芸術家が集まる地域なので、クラフトや絵画、雑貨などもマーケットではよく目にします。地元客だけでなく、観光客も足を運び、マーケットのオープンからクローズまで常に人で混み合っています。私はここで野菜販売の手伝いをさせていただきました。ブレントの野菜はとても人気で、多くのファンがいました。毎週来てくれるお客さんが多く、気さくに話しているケヴィンが印象的でした。
 このように、地元の材料で肥料を作り、それで育てた野菜を地元の人々に販売することで、ブレントは地産地消を実践しようとしていました。

<生活>
 ブレントが私に言った台詞で印象に残っているのが、「いいものを作りなさい」ということです。「いいものを作れば、こちらが売りに出なくとも良い、客が自分から求めてやってくる、そうなれば、値段を付けるのは客ではない。こちらだ。いいものとは、質のいいもの。安全でおいしい有機野菜だ。だからうちの品は少し値段が高い。だけど固定客(ファン)がいる」と自慢げにでもなく、というよりは、それが当然で普通の世の流れだというように教えてくれました。

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コンポストパイル 有用な昆虫を呼び寄せる花

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ホストファミリー マーケットの様子、開店前なのにもう人が来ている

 

6件目 Okainamu Farm
<家族>ジェレミー
<場所>ネルソン
<期間>2008.11.16~2008.12.2
<品目>有機果樹(キウイ、リンゴ、柑橘)
有機野菜(トウモロコシ、ニンニク、かぼちゃ、マメ類)、肉牛
<作業>キウイの摘蕾、リンゴの摘果、柑橘の収穫、除草、播種、牛の移動

<農場の概要>
 キウイフルーツ栽培の勉強をしたいとの要望にブレントが紹介してくれた有機農家です。この農場では、キウイフルーツを中心に商業的栽培を行っています。またトウモロコシ、マメ、リンゴ、柑橘類、ニワトリ、自給自足のための各種ベビーリーフ(サラダミックス)を育てています。一人で暮らしているおじさんで、近所にそのお姉さんが住んでいます。基本的にはジェレミー宅で作業、食事、睡眠をするのですが、お姉さんの家に共同の農場があるので、その農場の管理もしていました。その農場では、牛の飼育、カボチャ、ニンニク野菜の栽培をしています。

<生活>
 ジェレミーは日の出から日の入りまで働く、働き者です。仕事は基本的に私と別々でした。私にやり方だけ教えると、彼は別の仕事に取り掛かっていたので、私は大体一人で作業をしていました。正直寂しかったです。そしてウーフの農家としては、非常に長時間の労働環境でした。時に日の入りまで10時間を越す労働時間もありました。ウーフでは大体4~6時間程度の労働が原則と聞いていましたが、大体にしてそれを大幅に超える労働時間でした。さすがに文句も言いましたが、「休みたい時に休めばいい。ただやるべき事がたくさんあるんだ。」との返答でした。一緒に住んだウーファーは嫌がって、3日で出て行ってしまいました。お金を稼ぐわけでもなく、有機農業について何か学んだようなこともなく、ただただ労働者として彼の畑の管理の手伝いをさせられているようで、この農場ではあまりいい思い出は出来ませんでした。

 しかし、勉強になったことはあります。それはキウイの栽培方法と食事です。もともとニュージーランドで食べるキウイの味が日本で食べるそれと違い、その栽培方法を知りたいと思ってこの農場に来ましたから、キウイに関してはやる気は倍でした。彼はキウイを有機栽培する上での管理法や注意事項を丁寧に教えてくれました。食事に関しては、いい意味で、非常に質素でした。川原や庭に生えているハーブ、自家製の雑穀パンなど、経済的でヘルシーな食事ばかりでした。野草を食べる機会は今まで僕の人生であまりなく、あってもヨモギくらいでしょうか。ニュージーランドで生えている野草のあれこれを、彼はよく知っており、それらの一部を教えてもらいました。畑へ行く小道を普通に歩いていて「今日の晩御飯を踏むな」と言われたことが記憶に焼きついています。雑穀パンは全粒粉4に、ライ麦4、大麦2、ソバ1、3種類の何かの種少々を混ぜて作られています。これを食べていたこの時期は、信じられないくらい快腸でした。

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農場のご主人 キウイの花

 

7件目 B & A farm
<家族>ブライアン、アン(奥さん)
<場所>タウランガ
<期間>2009.1.12~2009.1.22
<品目>キウイ
<作業>キウイ摘果、整枝

<農場の概要>
 有機栽培のキウイフルーツ農家は以前訪れましたが、従来農法で栽培しているキウイフルーツ農家も見てみたいと、予てからの希望が通り、この農場に滞在しました。私のニュージーランド生活最後の農家となりました。

 以前のキウイフルーツ農場で聞きそびれてしまったことや、新たに出てきた疑問を根堀り葉掘り聞いていました。運が良かったのは、この農家のおじさん、おばさんが非常に理解のある方で、かつ協力的であったことです。私の質問一つ一つに逐一答えてくれ、いろんな参考資料を持ち出して来てくれました。奥さんが果物出荷会社の虫害制御室に勤務されている事もあり、キウイを含む果樹につく虫についての勉強もさせてもらえました。ここの農家ではグリーンキウイフルーツだけを栽培しているのですが、私がゴールドキウイフルーツについても知りたいと言ったことから、近所のゴールドキウイ農家の方に見学させてもらうよう、頼んでくれもしました。ゴールドキウイの成長の早さは異常なまでで、一日にしてつるが30cm近く伸びる様を見せられた時は驚きました。ゴールドキウイは特にですが、キウイは成長が早く、樹勢を抑えるのに、それだけ管理が大変だということを思い知りました。

<生活>
 この時期は、特に不自由なく英語で言いたいことが言えるようになっていました。多くの農家さんとも出会い、一緒に暮らしてきたので、新しいステイ先と言っても順応するのに時間はかかりませんでした。10日間だけの滞在でしたが、上記のようによく面倒を見てもらい濃密な10日間になったので、記憶によく残っています。週末はクルーズに連れて行ってもらいました。ヨットが趣味のご夫婦で、なんでも昔はオーストラリアを一周したのだそうです。今回クルーズしたのはタウランガの海でした。非常にきれいな海で、波風が心地よく、その後のバーベキューパーティも最高でした。

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クルーズにて これから摘果するキウイフルーツ

 

<全体を通して>
 非常に充実した濃い10ヵ月でした。長かったように感じますし、短かったようにも思えます。ただ、今後の人生を左右するくらいの大きな経験が出来たと思います。少なくとも、「きっとどこの国でも暮らしていけるな」という自信はつきました。なぜかと言えば、それは色々な人たちと出会えたからです。出会えて、そして良好な関係を築くことができました。

 ニュージーランドは多民族国家です。私が出会った人は、ニュージーランド人だけではありません。オランダ人、タイ人、オーストラリア人、韓国人、ドイツ人、インド人…。様々な人々と出会うことができました。その出会い方は一様でなく、一緒に暮らすこともあれば、時には隣人として、時には店員と客として、時にはバックパッカーズホテルで知り合うこともありました。初めは英語が不自由で、どこへ行くにも不安で仕方なかった私ですが、英語が徐々に話し聞けるようになり(今でも未熟ですが)、色々な場所で、色々な人と話す機会が増えました。そうして、世界を広げることができました。

 当然ながら、農業については最も長い時間を割きました。農作業もそうですが、農業にまつわる話はずっとしていました。色々な考えを持つ人がいました。環境に負担をかけない方法を実践する人、稼ぐことを第一に考える人、自給自足を目指す人、またそれらの間を取る人。そして、それぞれに応じて異なるライフスタイルがあり、栽培方法があり、販売方法がありました。農作業を手伝いながら、これらのスタイルを間近で見せてもらったことは、私にとって大きな財産となったと思います。就農するのであれば、どのようなスタイルで行うのがふさわしいか、常に考えさせられました。昨今は食糧自給率や食品の安全性、ガソリン・肥料価格の高騰などが話題になることが多いですが、それはニュージーランドでも同じでした。これらに関して意見を交わすのも非常に貴重な体験でした。

 ニュージーランドを北から南まで、ほぼ全て周らせてもらい、独自の文化や自然、盛んなスポーツ、おいしい食べ物、お酒などについて、聞いて見て味わって体験してきました。何もかもが新鮮で、自分にとって新しいものばかりでした。一方で、多くの人と出会ううち、痛感したものがあります。それは自分の国際的知識の乏しさです。日本以外の国の政治状況やその国が抱える問題に対して、あまり目を向けたことはありませんでした。ですが、研修を機に、紛争、水不足、労働力の不足、階級制度など様々なテーマの話をして、これらの事柄にも少なからず考えが及ぶようになりました。

 農業研修で出会った一人ひとりが刺激となり、彼らと共にした話や体験が、私の狭かった視野を広げてくれたと思います。彼らとつながりを持てたことが私の財産です。行って本当に良かったと思える10ヶ月となりました。ニュージーランド一国ですら、こうなのですから、他の国はどうなのでしょう?世界には何十カ国、何百カ国とあります。出来るのであれば、多くの国に行き、そこで新たな体験をしてみたいと思います。

 最後になりましたが、農業研修を終始暖かくサポートして下さった北海道国際農業交流協会の皆様、激励の言葉を送っていただいた大学の教授・友人、研修に行くことを認め援助をしてくれた家族に、感謝の意を捧げたいと思います。大変有難う御座いました。 

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フカフォール、ものすごい水量 マセソン湖周辺のウォーキングトラック

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エイベルタズマンにてシーカヤックに挑戦 リトルトンの名物巨大アイス

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ケリケリのクリスマスパレード ロトルアのマオリコンサート

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マウントルアペフ、冬の登山 ダウトフルサウンド