酪農 男性
<カナダ農業研修報告書>
<派遣期間>
2013年6月15日~2014年6月13日 約12ヶ月間
<きっかけ>
海外研修を通して客観的に自分を見つめ直し、異国の文化や環境、価値観などに肌で触れて、視野の拡大と精神的な成長を目標にしました。またカナダは牛群改良の先進国であるため、世界トップクラスの牛をこの目で見てみたい!という思いがありました。そこで今回の海外研修プログラムを利用させてもらいました。
~研修先「Rietveld Dairies Ltd.」~
<家族構成>
ジェイソン(ボス)、ベン(父)、マリー(母)、マイク(弟)、クリスティーン(妻)
タイソン(長男)、トロイ(次男)、ジニー(長女)
農場は、アルバータ州の中央部に位置し、人口約170.000人のフォート・サスカチュワンという町にあります。
カナダはアメリカに並び、牛群改良トップクラスの国です。研修先では自家受精や採卵も行っていました。
研修先の農場は、アルバータ州のカウショー(共進会)にも参加していて、雑誌に掲載されたり、プレミアブリーダーを受賞するなど、優秀な成績も残しています。
ショーカウは10頭ほどいますが、どの牛も素晴らしく、中でもRietben baxter ceceliaという牛は、カナダの体格審査においてEx-94とすごい成績を残しています。ショーカウだけではなく、牛群全体を見ても体格の良い牛ばかりでとても優れた牛群だと感じました。
<家族のライフスタイル>
研修先の農場の人たちは皆、優しくて会話好き、そして労働意欲に満ち溢れた人たちでした。英語力が乏しい私に丁寧にわかりやすく教えてくたり、仕事の時に、言葉が理解できないことがあれば、ボスが手本を見せてくれました。そして、オープンな性格なので、家族への愛情表現がとても豊かに感じました。思ったことはすぐに言葉に出すし、ハグやキスの回数が多くて、ボスが子供や奥さんを本当に大切にしているのが伝わってきました。私も将来、あんな家庭を築きたいな~という理想像ができたし、そういう文化に触れることができて良かった。
<食文化>
朝食はトーストと卵、時々ワッフル。昼食はスープやマッシュポテト、マカロニなど。食後のデザートにアイスクリームやアップルパイ、ケーキがありました。夕食はシチューやピザ、ハンバーガーなど。週1回、外でウインナーローストがあります。誕生日やイベントがある日は、ボスの兄弟の家族が集まり、ステーキやグラタンなどを持ってきてパーティーをしました。基本的に野菜が食卓に並ばなかったし、高カロリーなものが多かった。
それに比べて日本食は健康的でこんなにおいしいのか!と帰国後に感動しました。
<気候>
日本と比べて年間降水量が少なく、湿度は低い。夏の最高気温は35℃まで上がり、気温がそれほど高くない日でも、直射日光が強いためか日本とは違った、肌が焼けるような暑さでした。さらに冬から夏にかけてどんどん日が長くなります。サマータイム時は、朝7:00頃には明るくなって夜22:00まで日が沈まなかった。部屋にカーテンがついていなかったのでなかなか寝付けない日が続きました。冬の最低気温は約-45℃にもなり、その中で仕事をするのは辛かった。
【1日の作業内容】
3:30~7:30 搾乳・哺乳
【朝食】
9:00~12:00 育成牛の給餌・敷料追加、牛移動、その他
【昼食】
13:00~15:00 育成舎、哺育舎の敷料交換、高圧洗浄機でパーラーの掃除
冬に使う薪の調達、麦稈・牧草のコンパクトを補充、牧柵の修理など
15:00~18:30 搾乳・哺乳
【夕食】
21:00 就寝
【農繁期の労働時間:約50~65時間/週】
【シーズンオフ:約40~55時間/週】
機械は、スキットステアローダー、ショベル、トラクターと一通りの機械を運転しました。
搾乳牛舎は新しいし、除糞用スクレーパーと自動エサ寄せマシンがあり、機械化が進んでいました。ですが育成舎は古くて手作業が多いし、飼養頭数に見合った労働人数がいないため、1日の作業時間が多かった。とても過酷な毎日でした。笑
<生活>
宿泊場所は、農場の敷地内にあるトレーラーハウスでキッチン、トイレ、シャワー、冷蔵庫、ベッド、テレビがついていてかなり広めの家でした。基本的に自炊でしたが、週に4~5回はボスの家に招かれ、一緒に食事をしました。
車はボスの所有している研修生用の車を購入し、帰国時にボスに売却。
給料はCAN$1200.00/月(約12万円)
有給休暇が1年間で2週間。休暇は隔週に2日間。
ボスが働く週は僕らが休んで、次の週は僕らが働いてボスが休むという作業体系でした。
最寄りの町、フォート・サスカチュワンへは車で約25分。食糧や日用品、作業着などはここで調達します。州都エドモントンへは、車で約1時間。そこには、世界最大のショッピングモール「West Edmonton Mall」があり、隔週の休みには頻繁に足を運びました。ショッピングモールには巨大ウォータースライダー付プールやホッケーリンク、遊園地のようなアトラクション、映画館などがあり、1日では回りきれないほどの広さです。
ボスは自家用ホッケーリンクを所有していて、冬にはホストファミリーとアイスホッケーをした。雪が降った後の除雪は僕らの仕事でしたが…
長期の休暇では、12月に車で約4時間かけて世界遺産でもあるロッキーマウンテンへ行き、バンフで3日間、ジャスパーで3日間、スノーボードをしました。その時は寒さが厳しく、-35℃の中で滑ったこともありました。しかし、晴れているときの景色は絶景で、4000m級の山々がどこまでも続き、すごい迫力でした。4月には約14時間運転し、ウィスラーへ行きました。ここでは10日間滞在してスノーボードやショッピングをしました。
<牛舎改造>
牛舎改造前は、ショーカウ、フレッシュ群、中・後期泌乳群に分かれていました。
ショーカウがいたフリーバーンをフリーストールに改造し、中・後期泌乳群とフレッシュ群を1群管理に変更した。その際、全ストールにジェルマットを導入した。フレッシュ群のいたフリーストールをタイストールに改造し、そこでショーカウを飼育する計画である。このタイストールへの改造は、私が日本へ帰国する前に完成しなかったため、完成形が見られなくて残念であった。
ジェルマットの導入により、クッション性が良くなり、搾乳の時の牛床の掃除も楽になり、作業効率が上がった。しかし、クッション性が増した分、牛が寝るとその部分が沈むため尿や漏乳したミルクが牛床に溜まっていた。乳頭が常に濡れていて清潔でなくなるため、それも乳房炎の原因にもなっているのではないかと考える。私自身、以前からジェルマットには興味があり、自家にも導入してみたいと考えていたので、このような問題点に気づくことができて非常に良い参考になりました。
私たちが帰国する1か月程前から工事がスタートしたため、完成は見られず残念でした。改造して必ずしもいい結果になるとは限らない。でも結果がどうであれ新しいことにチャレンジしていく姿勢や行動力、吸収力は、今後農場を経営するうえで大切なことではないかと感じた。
研修の成果 ~1年間で得たこと感じたこと~
カナダで過ごす中で、日本にいた頃はすごく幸せだったんだなぁと気づいた。
生まれ育った地で、当たり前だった環境や文化。食べ物はおいしいし、すぐ近くに友達や家族がいる、どこにいてもインターネットが使える、言葉は通じる。日本を離れることで、客観的に自分の置かれていた環境を振り返ると、それがどれだけ幸せなことか…。今までは当たり前だったことを幸せと感じ、感謝すべきなのだと思いました。
帰国して時間が経てば、また日本の当たり前に慣れてしまうかもしれません。でも多分そういう体験をしたということは、どこかで自分のキャパシティを広げているのだと思います。今もあの大変だった海外生活をふと思い出します。その記憶があるおかげで、自信がでるし、強くなれる気がします。これはきっと自分の人生で大きな財産になったのではないかと思います。
きちんと自分と向き合うことができた。
正直、今までは私自身本当に酪農がやりたいのか明確ではありませんでした。父の農場は経営も良く、牛舎も立派だし潰したくはないな~という、漠然としたものしかありませんでした。ですが、1年間全力で働き、酪農と向き合い、自家の農場と比較することで酪農の楽しさや難しさ、奥深さを知ることができた。私はまだ酪農に対する知識が足りなく、もっともっと学びたいというやる気とやりがいを見出し、酪農に対する気持ちも大きく変わりました。また、海外ではライフルの保持が認められています。起立不能になり、どうしようもなくなった牛たちがその場で処分されるのを目の当たりにしました。仕方のない部分もあると思いますが、経済動物である前に一つの命ある生物として認識しなければと感じ、酪農業は牛の命を預かっている仕事なのだと、改めて命の尊さを学びました。
最後に、今回の海外研修を親身になって支えて下さった農業公社の皆さんに心から感謝します。素晴らしい1年間を頂き本当にありがとうございました!
カナダで過ごした日々の中で、自分の視野や考え方は確実に広がり、精神的にも強くなりました。日本では経験できないことも多々ありました。なので、この報告書を見た人や少しでも海外に興味のある人は是非経験してほしいです。